【 講義抄録 】

 

ランダル・ロックウッド講演会(2002年6月23日実施)

 

「動物虐待と人間社会の暴力の関係」

 

2002年6月23日、動物との共生を考える連絡会主催で、

ランダル・ロックウッド博士(当時/HSUS教育担当副会長)の講演が

東京都内で行われ、全国から参加者も集まり盛会だった。


ここ数年、動物を虐殺する青少年の事件が相次ぎ、世間を騒がしている。

 

動物虐待は何が背景にあり、どのような危険を孕むのか。
また今後どのように対応して行けばよいのか、博士の講演内容を抜粋して紹介したい。

 

■ 歪んだ支配欲

 

70年代からFBIが連続殺人などの凶悪犯罪者の20年来の過去を調査したところ、
最初に動物虐待を繰り返していたことがわかった。

 

例えば13人連続殺人のバーコウィッツは母が飼育していた金魚に毒を流し、
金魚及び母が苦しむのを観察し、さらに小鳥、蛾、猫、犬などの小動物等を虐待し

続けた。

このように他の生物へのコントロールする力を自分が持ち、それを発揮できると

いう二つが、動物虐待を始め家庭内暴力などの暴力事件での重要点である。

 

ジェフリー・ダーマーも多くの殺人をしたが、昆虫から始まり多くの動物を殺し、
またその死体を自宅近くの林に展示して友人に見せていた。

 

父親の反応は動物への知的好奇心が旺盛で健全であり、将来外科医か獣医になるか

と期待していた。

 

多くの事例から考え、若い青少年が動物への虐待行為、動物のいのちを断つと

いうような行為をすることは、犯罪への境界線を一歩踏み越えてしまったシグナルだ

と思わざるを得ない。

 

確かに動物虐待=将来の凶悪犯罪者と言い切れるわけではないが、そのほかに

何かの問題があることを探るべき警告であると考えてほしい。

 

放火や家庭内、学校内暴力で問題はないか薬物に手をつけていないか等の

反社会的な行動を示す要素である。

 

動物のいのちを断つことは既にその少年が社会に対する自分の権力を誇示しよう

とする世界に入ってしまっていることを示している。

 

これは決して銃社会といわれるアメリカ独自のパターンではなく、神戸の少年を

始め日本やその他の国々でも様々な形式で既に現れている。

 

暴力犯罪と動物虐待歴の因果関係

 

このような連続殺人などでない普通の人がどのような動物虐待をしていたか、

ある飼い犬の虐待事件の捜査の過程でマサチューセッツ州の動物虐待防止協会

(MSPCA)が3人の青年の過去の犯罪歴を徹底的に調べたところ

 実に75回の逮捕歴があり、動物虐待の段階で検挙していれば多くの暴力的犯罪が

減少したはずだと言うことが分かった。

 

このことからMSPCAは過去20年間、約200件の記録を洗い直し、意図的に

動物を殴り、傷つけ、殺す等の犯罪の27%は未成年で56%は30歳未満、

97%は男性である。また虐待をした前後の10年間を集中的に調べた。

(同じ男性で動物虐待をしない地域住民を対照群として)

 

それは直感的に予想していたような数字が出た。

暴力的犯罪(家庭内暴力を含め検挙される率)は動物虐待をしない群の4倍。

財産を盗む、器物損壊などは対照群の約4倍。

薬物中毒及びそれに手を染める等は対照群の3倍。

犯罪的傾向、反社会的傾向は対照群の3・5倍であった。

 

これらの傾向は動物虐待が他の犯罪の後に現れることもしめすが、

実際の動物虐待と将来の犯罪傾向を見越して考えるという点で

過去の分析にとどまらない視点を我々に与える。 

 

中・高生に多い動物虐待

 

HSUSの調査では意図的に動物を傷つける者は3分の1は

13~18歳の年齢層であり、これらの者の94%は男子、これらの4%は

12歳以下の子供によりおこなわれた。

 

またその20%ははドメスチックバイオレンス、児童虐待その他の違法行為を

繰り返していた。

 

虐待の連鎖

 

児童虐待があった53の家庭で飼われていたペットの60%で動物虐待が行われていた。

 

その内37%は子供自体が虐待に関わっていた。子供は自分が虐待に接してきたことで、

今度は自分が暴力が振るえるペットを対象にしていたわけである。

 

これらの事実は、青少年たちが動物虐待を実際に行った場合は、その青少年自身も

何らかの虐待の犠牲者であることも我々に知らせてくれるひとつの症例である。

 

地域での対応をここで我々が振り返って見ると、いままでの愛護教育は、子供たち

全体に対して適切な動物の飼い方や責任などを教えてきたけれど、健全な家庭で

育った子供は、自分の親や周りの大人から大抵の善悪の区別を学んでいる場合が

ほとんどである。

 

それ自体が資源として活用できないだろうかということ。

 

そこで最近、動物愛護教育の方法も見直されてきた。健全な家庭の子供たちに対して

きめ細かく活動を行うよりは、虐待を背景に育った子供たち対して前述の資源を

有効利用していく方法である。

 

健全な家庭の資源、あるいは地域の資源を問題を抱えている少年に多少でも

与えていくことで、少年の将来を大きく変えられるという評価に

変わってきた。

 

その意味で、今後地域社会の役割というものはますます重要だろう。

地域のなかに問題を抱えた少年を見つけた場合、なるべく早い時期に適切で

速やかな対応が求められるが、そのためには我々のような動物愛護団体や

教育機関、児童虐待などの児童福祉センター等の他の専門分野の人々と積極的に

親交を持つ事が大切で、事態に際して連携して対応する事が肝要であると思われる。

 

これらの点から考えて、最初の虐待を地域社会が一丸となって見逃さず、素早く

反応する(フアーストストライク)で犯罪への芽を摘むことだ。

 

日本でもこのキャンペーンが広がることを望みたい。

 

過去20年間における犯罪者の動物虐待有無の比較

 


暴力

犯罪者数

窃盗・器物

損壊

犯罪者数

薬物依存

者数

 

反社会的

行動

動物虐待

あり

38%

4倍

44%

4倍

37%

3倍

37%

3倍

動物虐待

なし

7% 11% 11% 12%

マサチューセッツ州 動物虐待防止協会の調査